大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)4890号 判決 1969年6月24日
原告 樋口義雄
右訴訟代理人弁護士 山口伸六
被告 株式会社幸福相互銀行
右訴訟代理人弁護士 島田信治
同 高畠光典
主文
被告より原告に対する大阪法務局所属公証人白神作成第五〇、九八五号金銭消費貸借契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本件について、当裁判所が昭和四三年八月一五日になした強制執行停止決定は、これを認可する。
前項に限り、かりに執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
一、原告と被告との間に原告主張内容の債務名義が存し、これに記載の被告の債権は、原告主張の元本極度額を六七〇万円とする根抵当権の被担保債権とされていたこと(中略)は当事者間に争いがなく、<証拠>によると、被告は右根抵当権の被担保債権として、右本件債権のほかに、被告主張内容の各債権を有し、原告はこの債務についても連帯保証をなしていたことを認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
二、そして、訴外一寺治が本件債務について原告主張どおりの一部弁済を続けた結果、本件債務の残債務は元金一、四〇二、四三五円およびこれに対する昭和四一年七月一七日以降支払ずみまで日歩五銭の割合による損害金となっていたところ、被告は前記被担保債権のうち原告主張の債権(元金合計六七〇万円、損害金合計五五二、四三二円)を申立債権と表示して根抵当権実行による競売申立をし、当該不動産が競売された結果、被告は競売代金のうち五、七七〇、三三〇円を受領したこと(中略)は当事者間に争いがない。
三、しかるところ、右被告の受領した五、七七〇、三三〇円の充当関係について争いがあるので、以下この点について判断する。
被告は、一般に根抵当権の被担保債権がその極度額を越える場合には、民法の弁済充当に関する規定の適用は排除され、どの債務に充当するかは債権者の自由である旨主張する。しかしながら、被担保債権が極度額を越える場合には、債権者は、満足を得えようとする債権を競売申立書に請求債権として記載し、或は競落期日までに計算書によって届出ることは許されるが、より以上に、執行裁判所から交付を受けた競売代金を、民法の弁済充当に関する規定を排除して債権者の自由に選択する債務に充当し得るとする根拠は見出し難い。
およそ、不動産の任意競売において、執行裁判所が競売申立書に記載の請求債権或は債権者提出の計算書に基づき代金交付表(配当表、以下同じ)を作成し、それに関係人が異議を述べなかったため、右交付表に従って代金交付(配当)が実施された場合においては、右交付表に従った充当がなされるべきであって、後日債権者において弁済の合意等を理由にこれと異なる弁済の充当、たとえば競売手続費用として配当表に記載された以上の額を取得したり、競売申立書或は計算書に記載された以外の債権に充当することは許されないと解するを相当とする(大阪高裁昭和四二年二月二八日判決、金融法務事情四七一号三一頁参照)。
ところで、<証拠>によると前示被告の受領した金五、七七〇、三三〇円は内金七二、六六五円は競売費用として、内金五、六九七、六六五円は債権元金六、七〇〇、〇〇〇円および利息(遅延損害金)五五二、四三二円に対する弁済として交付されたものであることが明らかである。そして右債権元金額および利息額が、前示競売申立書に記載の請求債権のそれと一致している点に照すと、被告は計算書を提出しなかったか、若しくは、請求債権どおりの債権を計算書に記載して届出たものと推認され、そうすると前記受領金の内五、六九七、六六五円は当然競売申立書に記載の請求債権の弁済に充当されねばならぬといわざるを得ない。
もっとも、右金員によってはその請求債権を満足できないことは明らかであり、かかる場合、前記代金交付表の記載に反しない限度において、例えば複数ある請求債権元金のうちどの債権元金に弁済充当されるかといった点については、当事者の合意等の弁済充当が認められると解する余地があり、それに関して被告は、昭和四二年四月六日頃、被告と訴外一寺治との間に、右競売代金による受領金は本件債務に充当しない旨の合意が成立していた旨主張する。しかし<証拠>をもってしては、右被告主張の合意が成立した事実を認めることができず、他にこれを認めるに足る証拠はない。従って前記五、六九七、六六五円が競売申立の請求債権中のどの債権に充当されるかは、民法所定の法定充当によらざるを得ず、以下これについて考察する。
(1) 元金と遅延損害金の各債務が存する場合には、先ず遅延損害金債務に充当されるべきであるから、それの合計額五五二、四三二円に充当される。
(2) 残五、一四五、二三三円が請求債権中の元金のうち、いずれの元金に充当されるかを考察するに、右各請求債権がいずれも弁済期が到来しており、またいずれも保証付債権であることは前説示したところである。そして本件債務についてのみ債務名義が存することは当事者双方の主張から明らかであるところ、右債務名義の存在することをもって債務者のために弁済の利益が多きい債務とみるべきか否かは暫くおき、各債務の弁済期を比較するに、本件債務について、従前、その一部弁済として別表一のように弁済がなされたことは当事者間に争いのないところ、右弁済状況(昭和四一年四月一六日から日歩五銭の利息を支払っている等)よりすると、原告は本件債務の分割払を怠たったため、特約に基づき期限の利益を失い、昭和四一年四月一六日には残元金の弁済期が到来していたものと認められ、それを他の債務の弁済期を対比すると別紙二の番号(十二)の債務に次ぐ早期のものであることが明らかである。そうすると、本件債務についてのみ債務名義が存することが債務者の利益に影響を及ぼさないものとして、弁済期の到来の順序に従って充当がなされたとしても、前記(イ)の債務は、別表二の番号(十二)の元金債務五三〇、〇〇〇円に次いで充当される結果、(イ)の元金一、四〇二、四三五円全額に充当されることになる。
右検討したところにより、本件債務中残元金一、四〇二、四三五円およびこれに対する昭和四一年七月一七日から同年一一月二〇日まで日歩五銭の割合による損害金八九、〇五五円は、被告の前記競売代金の受領によって弁済消滅したということができる。
四、次に、原告は、被告が競売申立の請求債権としなかった部分、すなわち残元金一、四〇二、四三五円に対する昭和四一年一一月二一日から昭和四二年九月二七日(競売代金受領により元金が完済された日)まで日歩五銭の割合による遅延損害金二一八、〇七九円(中略)は、別途に昭和四二年五月から昭和四三年七月までの間に月二万円ないし四万円づつ合計三一万円を被告に支払った旨主張しており、<証拠>を総合すると、右主張の弁済の事実を認めることができる。
五、以上により、原告の、本件債務は完済により消滅した旨の主張事実を認めることができるので原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。
<以下省略>。
(裁判官 出嵜正清)
<以下省略>